本学教員による母子間腸内細菌叢垂直伝搬に関する研究成果が日本学士院発行のProceedings of the Japan Academy, Series Bに掲載されました

2024年05月15日

ヒトの腸内にはおよそ1000種類、100兆個の腸内細菌が生息し、この多様な腸内細菌の集団は腸内細菌叢(そう)と呼ばれ、ヒトの健康や病気に密接に関わることが知られています。子の腸内細菌の多くは、子が産道を通過する際に母親から取り込まれますが、何らかの環境要因によって母体の腸内細菌叢が撹乱されたり、母子間の細菌の伝搬が阻害されると、子の腸内細菌叢はその影響を受け、子の発育に影響を及ぼすと言われています。しかし、撹乱された周産期母体の腸内細菌叢が、子の腸内細菌叢の定着と形成にどのような影響を及ぼすかはこれまで明らかではありませんでした。

今回、放射線技術科学科の栃谷史郎教授らは、マウスを用いて、撹乱された母体腸内細菌叢が仔の腸内細菌叢に継承される様子を分子生物学的手法により継時的に解析しました。その結果、多くの場合、撹乱された母体腸内細菌叢の性質は仔の腸内細菌叢に継承されていることが分かりました。しかし、一部の母体腸内細菌叢では高割合に存在した細菌が仔に伝搬しないことがあり、母から仔への腸内細菌の垂直伝搬には細菌分類(種)の選択性があることが分かりました。このことは、子の腸内細菌叢の形成過程において最初に定着する母体由来の細菌群が、出生後早期の子の腸内細菌叢の定着と形成に影響を与えることを示唆しています。

母体の腸内細菌叢は、ストレス、高脂肪食、感染症罹患、薬物など様々な環境要因で撹乱される可能性があり、周産期の母体腸内細菌叢を健全に保つことが、子の健全な腸内細菌叢の定着と形成、心身の発達に重要であることを示唆しています。

研究成果は、日本学士院総会において、編集委員の審良静男先生(学士院会員・大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授)により報告されます。本研究は本学・栃谷史郎教授と摂南大学研究者との共同研究の成果であり、下記論文に掲載されました。

掲載論文
Shiro Tochitani, Takamitsu Tsukahara, Ryo Inoue. Perturbed maternal microbiota shapes offspring microbiota during early colonization period in mice. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2024 May 2. Online ahead of print. doi: 10.2183/pjab.100.020.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjab/advpub/0/advpub_pjab.100.020/_article

-副学長(大学院・研究担当)鈴木宏治-