薬学科教員などによる腎移植術後のタクロリムスの体内動態に関する研究成果が、WILEY社のBasic & Clinical Pharmacology & Toxicology誌に掲載されました。

2020年12月03日

免疫抑制剤であるタクロリムス(tacrolimus:TCLと略す)は臓器移植術後に広く用いられる医薬品であり、血中TCL濃度の上昇は腎障害や脳症などの副作用と密接に関連することが知られています。TCLは主に代謝酵素のCYP3A4およびCYP3A5で分解されますが、日本人にはCYP3A5の遺伝子多型(*1または*3)があり、CYP3A5*3のホモ接合型を有する患者では、CYP3A5*1を有する患者と比較して、TCLの代謝能力が低いため、移植手術前にCYP3A5の遺伝子型を解析し、遺伝子型に応じてTCLの投与量を調整するオーダーメイド医療が行われています。一方、腎移植術後の患者では、血中に増加するインターロイキン-6(IL-6)がTCL代謝酵素の産生を抑制するため、術後早期にはTCLの体内濃度が上昇すると考えられていますが、その詳細は明らかではありませんでした。

この度、薬学科・榎屋友幸准教授らは、CYP3A5遺伝子型と腎移植術後早期のTCLの体内濃度との関係を解析し、TCLの代謝能力が低いCYP3A5*3ホモ接合型を有する患者では、腎移植術後3~4日目に TCLの血中濃度が一時的に上昇することを確認しました。また、臓器由来細胞を用いた実験により、IL-6は肝臓と小腸に作用し、CYP3A4およびCYP3A5の両遺伝子の発現を抑制することを示しました。

これらの結果より、腎移植術後早期においては、特にCYP3A5*3のホモ接合型を有する患者に対しては、TCLの血中濃度管理および副作用観察をより厳重に行う必要があることを示唆しました。

掲載論文:
Enokiya T, Nishikawa K, Hamada Y, Ikemura K, Sugimura Y, Okuda M. Temporary decrease in tacrolimus clearance in cytochrome P450 3A5 non-expressors early after living donor kidney transplantation: Effect of interleukin 6-induced suppression of the cytochrome P450 3A gene. Basic Clin Pharmacol Toxicol. 2020 Nov 28. doi: 10.1111/bcpt.13539.

-副学長(大学院・研究担当)鈴木宏冶-