人口の高齢化などと関連して、免疫力の低下によって体内の臓器に真菌が感染する深在性真菌症は年々増加しています。しかし、これら真菌症の治療薬は4つのタイプに限られるため、抗真菌薬が効かない耐性真菌による真菌感染症の治療は、細菌感染以上に難しいことが知られています。また近年、1剤だけではなく2剤以上の抗真菌薬に耐性を示す多剤耐性真菌が出現し、医療を一層深刻なものにしています。
本研究では、血中で真菌が増殖する血流感染において多剤耐性真菌の出現が世界的に報告されているカンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)の標準株を用いて、最新の抗真菌薬であるキャンディン系薬剤(細胞壁合成阻害薬)のミカファンギンに対して感受性が低下する株を選別し、その中から、別のタイプの抗真菌薬であるアゾール系薬剤(細胞膜合成阻害)のフルコナゾールとボリコナゾールにも耐性を示す株を選択し、変異した遺伝子を解析しました。その結果、この多剤耐性はリボソームRNAの修飾因子の遺伝子に起きた点変異に起因したものであり、この点変異が薬剤排出ポンプを活性化させてアゾール系薬剤を排出させ、代謝活性や増殖を抑えることによってキャンディン系薬剤に抵抗性を示すことを証明しました。
今回発見した修飾因子の遺伝子変異は、これまで報告の無いものであり、耐性菌の克服を目指す新しい治療薬の開発に寄与することが期待されます。本成果は、宮崎大学、長崎大学、東北医科薬科大学、明治薬科大学などとの共同研究で得られたものであり、本学では薬学科・中山浩伸教授、森田明広准教授が参画しました。
掲載論文
Taiga Miyazaki, Shintaro Shimamura Yohsuke Nagayoshi, Hironobu Nakayama, Akihiro Morita, Yutaka Tanaka,Yasuhiko Matsumoto, Tatsuo Inamine, Hiroshi Nishikawa, Nana Nakada,Makoto Sumiyoshi, Tatsuro Hirayama, Shigeru Kohno & Hiroshi Mukae
Mechanisms of multidrug resistance caused by an Ipi1 mutation in the fungal pathogen Candida glabrata
Nature Communications (2025) 16:1023
https://doi.org/10.1038/s41467-025-56269-z
-副学長(大学院・研究担当)鈴木 宏治-