海藻ヒトエグサ(アオサ海苔)には、多くのビタミン類、カルシウム、鉄分とともに、食物繊維が豊富に含まれており、腸内環境の改善や免疫力向上、美肌効果などを持つ健康食品として知られています。最近の研究から、ヒトエグサに大量に含まれる硫酸化多糖体であるラムナン硫酸(RS)には、血管内皮の炎症抑制作用、抗血栓作用、抗肥満作用、抗動脈硬化作用、抗ウイルス作用など様々な病態改善作用があることが分かってきました。
今回、本学薬学科の三輪高市教授と鈴木宏治教授を中心とする産学共同研究チームは、経口摂取したRSが2型糖尿病モデルマウスにおける認知機能低下を抑制し、海馬の神経障害を改善する可能性があることを明らかにしました。実験では高血糖状態のⅡ型糖尿病モデルマウスにRSを持続的に4か月間摂取させたところ、統計上有意な血糖値の低下が確認され、さらに高血糖に伴って低下した記憶機能が改善される傾向が観察されました。また、同じマウスの脳組織の解析では、高血糖下で萎縮した海馬神経細胞層がRS摂取によって回復していました。高血糖下では、脳内のミクログリアが活性化され炎症マーカーのTNF-α発現量が増加するなど炎症亢進が観られましたが、RS摂取により脳内の炎症は有意に抑制されていました。RS摂取によって高血糖状態で生じる脳内炎症が抑制されることを示した今回の結果から、高血糖や糖尿病に伴う認知機能障害や認知症の発現は、RSの摂取によって阻止できる可能性があることを示しています。
本研究は、本学薬学科の三輪高市教授・平本恵一准教授・鈴木宏治教授、東洋医学研究所の有馬 寧教授、総合心療センターひながの佐藤雅也博士、江南化工株式会社(四日市市)の寺澤匡博博士による産学共同研究として実施され、研究成果はMDPI社の海洋性薬物専門誌のMarine Drugs誌 電子版(6月12日付け)に掲載されました。
掲載論文:
Miwa T, Sato M, Ma N, Hiramoto K, Terasawa M, Suzuki K. Rhamnan sulfate from the seaweed Monostroma nitidum may improve cognitive impairment caused by hyperglycemia. Mar Drugs 2025, 23, 250. https://doi.org/10.3390/md23060250
-副学長(大学院・研究担当)鈴木宏治-