川崎病は主に乳幼児にみられる急性熱性症候群で、全身の中・小動脈に血管炎を起こし、放置すれば3割程度の患児が冠動脈病変をきたし、心筋梗塞の発症原因になります。川崎病患者は増加傾向にあり、治療には大量のガンマーグロブリン投与(IVIG療法)が主に行われますが、無効例も1割程度は存在すると報告されています。現在の治療ガイドラインでは、プレドニゾロンなどの抗炎症薬や抗ヒトTNFα抗体などの単独療法あるいはIVIGとの併用療法が推奨されていますが、再発例も多く、新しい治療法の開発が待たれていました。
一方、遺伝子組換えトロンボモジュリン(rTM)は、抗血液凝固作用と抗炎症作用を併せもち、播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療薬として用いられています。この度、薬学科の中山浩伸教授らは、川崎病モデルマウスを用いてrTMの川崎病治療効果について解析しました。その結果、rTM投与群では、川崎病で特徴的に観察される心臓冠動脈の血管内皮の肥大化が抑制されていました。また、rTM投与群では、病変部のある心臓や免疫担当細胞が集積する脾臓において抗炎症性サイトカインIL-10の発現が非投与群と比較して有意に高くなっていることが観察されました。この結果から、rTM製剤は川崎病の治療薬として有用であることが示唆されました。
本研究には、本学薬学科の中山浩伸教授、伊奈田宏康教授、堤 智斉准教授、平井一行助教、鈴木宏治教授、薬学科生の犬飼達也さん、近藤健太さん、東京薬科大学の安達禎之教授、三浦典子教授、大野尚仁教授が参画し、研究成果はKarger社の国際雑誌Journal of Vascular Researchに掲載されました。
掲載論文:Hironobu Nakayama, Hiroyasu Inada, Tatsuya Inukai, Kenta Kondo, Kazuyuki Hirai, Tomonari Tsutsumi, Yoshiyuki Adachi, Noriko Nagi-Miura, Naohito Ohno, Koji Suzuki. Recombinant human soluble thrombomodulin suppresses arteritis in a mouse model of Kawasaki disease. J. Vasc. Res. 2021 Dec 20; 1-13. doi: 10.1159/000520717. Online ahead of print.
-副学長(大学院・研究担当)鈴木宏治-