直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants: DOAC)は、非弁膜症性心房細動患者の脳血栓塞栓症の発症予防や多様な血栓症患者の再発予防に広く用いられています。鈴木宏治教授らは、これまでDOACのなかでも血液凝固Xa因子特異的阻害薬のエドキサバンedoxaban(EDX)に大腸癌細胞増殖抑制作用のあることを報告してきました(TH Open 2023; 7(01):e1-e13)。
この度、本学薬学科の平本恵一准教授らは、転移性が高いマウス癌由来メラノーマ細胞(B16細胞)を接種したC57BL/6j雌性マウスに、3種のDOAC(トロンビン阻害薬:dabigatran etexilate、Xa因子阻害薬:EDX及びrivaroxaban)を夫々毎日経口投与し、14日後の癌細胞の体内転移に及ぼす影響を解析しました。その結果、特にEDXに著しい癌転移抑制作用のあることを認めました。分子薬理学的解析の結果、B16細胞移植マウスでは癌細胞由来の組織因子がマウス体内で血液凝固・炎症反応を惹起し、生成されたXa因子が癌細胞と周囲細胞のXa因子活性化受容体(PAR2)及びPAR2依存性TGFβ受容体を活性化し、これによって腫瘍関連の転写因子と増殖因子の産生、腫瘍血管新生や上皮間葉転換(EMT)を促進してB16細胞の転移を促進することを認めました。これに対して、EDXはXa因子によるPAR2の活性化を阻害して癌細胞の転移を強く抑制することを明らかにしました。
この結果は、Xa因子特異的DOACのEDXは癌患者に高頻度にみられる血栓塞栓症の発症予防だけでなく、癌細胞の増殖と転移を強く抑制することを示しており、EDXの適応拡大や新しい作用機序に基づく癌治療薬の開発につながる可能性を示しています。
本研究は、薬学科の平本恵一准教授、渡邉大成学生、今井将嗣大学院生、鈴木宏治教授によって実施され、下記の論文に報告されました。
Hiramoto K, Watanabe T, Imai M, Suzuki K. Effects of DOACs on mouse melanoma metastasis and the inhibitory mechanism of edoxaban, a factor Xa-specific DOAC. TH Open 2025; 09: a27014242. DOI https://doi:org/10.1055/a2701-4242.
―副学長(大学院・研究担当)鈴木宏冶―