専門分野

病態解析・薬効制御学分野

医療の発展に伴い体内の様々な機能異常の検出、病態の解析は治療方針の選択、決定に不可欠のものである。特にがんや様々な神経疾患の早期診断、早期治療は今日の高齢化社会において喫緊の問題である。これらを踏まえて病態特性に基づく選択的な薬物移行性を示す新しい放射性診断薬剤、造影剤などの研究開発の方向性と問題点、それらを用いた臨床研究、臨床診断の現状、またはその特性を利用した薬物治療の動向について考察する。
種々の疾患に関与する因子の特性を解説し、治療戦略を練るうえで何が重要かを考える。例えば、細菌感染症に関連する因子、ヒト細胞への毒性低減を狙った抗菌剤、低酸素分圧感受性の放射線増感剤、抗がん剤、薬物代謝酵素などのタンパク質や低分子化合物について、それらの機能を発現するために如何なる構造上の工夫があるのか動的な構造を踏まえて、薬効を発現する分子を設計する際に留意すべき視点について理解を深める。
中枢神経系と内分泌系と免疫系のネットワークは生体の恒常性の維持に関わっている。ストレスはそのネットワークに影響を及ぼし、ストレス性疾患の誘導、又は様々な疾患を悪化させる。これらの観点から、ストレス性疾患に関わる視床下部-下垂体-副腎系の調節機構やストレスによる神経変性疾患の悪化や加齢肥満-メタボリックシンドロームへの進展について神経核、関連分子、遺伝子発現調節機構などについて考える。
脳の発生や細胞分化、損傷後の組織・器官のたどる運命、再生促進と機能回復について論理的な考え方を習得し、包括的な再生に必要な細胞生存・修復機構、エピジェネティックスな遺伝子表現機構、再生阻害環境の克服と神経回路再建のメカニズムについて考察する。さらにES細胞・iPS細胞を使った再生戦略や創薬研究を学び、最新の神経修復・再生から回路再建と機能修復の現状と課題を理解する。

薬物治療設計・管理学分野

本邦は、超高齢社会を迎え、厚生労働省2011年患者調査によると、65歳以上の1日当たりの外来患者は、2008年に比して約25万人増えています。また、65歳以上の国民医療費は、総額の55%以上を超えており、高齢者薬物治療に長けた指導的薬剤師の役割は、大変大きいものといえます。
従って、本分野では、老化がもたらす動脈硬化進展による循環器系疾患、精神・神経系疾患および免疫系疾患を中心として、基礎研究から臨床応用への橋渡しが可能な教育・研究を展開していきます。急性期から慢性期までの幅広いスペクトルで応用できる知識の構築を目指します。
医療現場では、チーム医療の実践が定着しているため、カリキュラムは、最大限に薬効を発現させる薬物投与設計能力と副作用を未然に防止できる臨床的思考が確実に身につく内容編成になっております。

医薬品解析・開発学分野

本分野では、
(1)心血管障害・脳血管障害・播種性血管内凝固症候群などの血栓症の発症機構の解明、その治療法・予防法の開発
(2)がんや老化を防ぐ有効な機能性食品に含まれる生理活性物質の探索と新規機能性食品の開発
(3)最新の抗体改変技術を用いたがんやアルツハイマー病などの神経変性疾患を標的とした抗体医薬品の解析と開発
(4)含金属化合物を用いた創薬研究と開発
などを課題とした教育研究を行います。
これらの教育研究を通して、目的とする医薬品や機能性食品の解析と開発に必要な具体的な研究計画・方法を策定できる実力を養成するとともに、研究活動の倫理性や薬学的・社会的意義を学びます。

社会環境薬学分野

本分野では、次の3本柱で教育研究に取り組みます。
(1)死因第1位である「がん」について、発がんの機序から検査/診断/治療薬まで、さらに化学予防の可能性について総合的に総括できるようにする。
(2)精神科2大疾患である統合失調症とうつ病、更に超高齢化により増加している認知症を取り上げ、薬物療法の適正化について研究し、より良い薬物療法の発展を目指す。
(3)科学技術の発展に伴い増加している新規の医薬品や環境化学物質について、その作用・影響を疫学の手法を用いて評価することの意義/重要性を学び、実践できるようにする。本分野では、社会・環境と疾病との関わりのうち、特に「がん」「精神疾患」、それらの研究手法として欠かせない「疫学」について学びます。さらに、研究指導教員のテーマの下、個々の課題を探求することにより、専門的かつ実践的な能力を修得し、自立した研究者・薬剤師となることを目指します。

医療薬学教育部

医療薬学研究は患者さんからデータを集積する事から始まります。患者データは問診記録・診察記録・検査データなどからなりますが、診察所見は最も患者さんに密接するデータであり臨床研究の中核になるデータです。従って臨床研究に従事する薬剤師は診察記録の理解だけでなく、非侵襲的なフィジカルアセスメント手法の基本を習得する必要があります。またこの手法は臨床研究のみならず、日常臨床業務における薬剤副作用の早期発見に不可欠の手技でもあります。この観点から薬学研究科では、高機能病態シミュレータ3機種を使用したバイタルサインデータ取得・心音聴取・肺音聴取、心電図記録並びに解読、呼吸機能検査並びに解読
の実習を行います。またアドバンスの実習としてTDM用サンプル取得のための採血実習を2種の採血シミュレータを使用して実施します。

医療薬学研究にはその基礎的素養として、患者データから患者状態を統合的に思考する能力が求められます。この臨床的問題解決能力の育成のため、少人数セミナー形式でNew England Journal of Medicine掲載の症例を教材として症例検討を行います。
これらの実習・演習を通して臨床薬学研究に不可欠な基礎的スキルと臨床データ解析能力の醸成を図ります。